蝶の夢−Lovers−



ねぇ…信じられる?
昨日まで、全然知らない者同士だったのに。
今は、貴方に一番近い。



「え?まもり姉ちゃんが?」
ようやく落ち着いたセナが、蛭魔から何処に出かけていて何をしていたのかを聞いていた時、あまりの意外さに驚きの声をあげた。何故なら、「あの」まもり姉ちゃんが蜘蛛と蝶と言う異種族の恋愛を認めてくれた上に、セナが蛭魔と一緒に居ても構わないと言ったと聞かされれば、普段のまもりを知るセナからすれば十分に驚くべき事である。セナが言うのも何だが、まもりは少し(いや、かなり)セナに甘く、また、セナに関することは徹底的に妥協をしない。以前、セナにちょっかいを出そうとしていた蝶に制裁を下していたのを、セナは知っている。
「そう、説得してきた」
事も無げに言う蛭魔に羨望の眼差しを向けながら、セナは話の続きを促す。
「他には何か言ってましたか?」
「『あなたがきちんと考えたのなら、私が口を出すことではありません。けれど、お願いだから、あなたの元気な姿をもう一度見せて頂戴』…だとよ」
蛭魔がまもりの口調や声を真似して言うものだから、笑ってしまった。難しい事をさらりとこなしてしまう蛭魔も、今のように少しおどけてみせる蛭魔も、全部が愛しい。どうしようもなく好き。格好良いとも思うけれど、可愛いとも思う。つくづくこの男に溺れている。

クスクス笑うセナの頭を撫ぜながら、蛭魔は抱えて帰った荷物の中から小瓶をひとつ取り出してセナに差し出す。中には透明な少し緩い液体で満たされていた。
「ほら、腹減ってるだろ?預かってきた」
「あ…お花の蜜…」
蛭魔からそれを両手でしっかりと受け取ると、そっと蓋を開ける。食欲のそそられる甘い香りが、セナの鼻腔をくすぐる。
「テメェ…花から蜜吸うの苦手なんだって?」
「…ッ!!どこでそれを!…って、姉ちゃんか」
この先一緒に居ればいつかはバレる事なのだろうけれど、こんなにも早く自分の苦手な事を知られるとは思っても見なかったセナは少しだけまもりを恨んだ。いや、でも自分で言わなくてよくなった事に関しては感謝はしているのだけれど。
「あと、着替えな」
「わぁ!ありがとうございます、ひるまさん!」
「泥だらけの服着させるわけにはいかねぇからな」
「えへへ。嬉しいです!」
セナは満面の笑みを浮かべて、手元の小瓶を口へと運ぶ。そしてそれを傾ければ、香りの良い蜜がセナの口内へと流れ込んでくる。うん、美味しい。

そんな幸せそうなセナを、これまた幸せそうに蛭魔は見ていたのだが、不図、昨夜から気になっていた事を思い出した。
「そういや、身体は大丈夫か?痛くないか?」
「……ちょっとだけ…」
嘘をつく訳にはいかなかったので、小瓶を唇につけたままセナは上目遣いで小さく答えると、案の定、蛭魔は眉間に皺を寄せてしまった。
「やっぱりか。まぁ、傷はついてなかったから化膿の心配はないから」
「あ、はい…」
ちょっとすまなそうな蛭魔を見ていると、キュッと胸が苦しくなる。セナは眼を伏せ、再び小瓶を傾ける。
(そっかぁ、傷ついてないんなら…ん?キズ…?)
「ぶはッ!」
危うく蜜を吐き出すところだった。もしかしてもしかしてもしかしてもしかして!!!
「おいおい、大丈夫か?」
激しく咳込んでいるセナから小瓶を取り上げサイドボードに置くと、背中をさすってやる。涙目になったセナの可愛さとシーツ越しの体温にノックアウトされそうになりながらも、蛭魔は必死で踏みとどまる。そんな蛭魔の葛藤など露知らず、セナは自分の頭に浮かんだそら恐ろしい想像でグルグルしていた。
「き、傷って…見たんですか!?」
「あ?見てなきゃ傷がついてるかついてないかなんてわかんねぇだろ?…って、顔真っ赤だぞ〜?」
ニヤリと笑いながら、蛭魔はセナの顔を覗きこむ。この愛しい存在は、昨夜自身を全て暴かれていると言うのに、まだ処女のような反応をする。
「だ、だって、ひるまさんが…」
「ケケ…今さらだろ?」
「で、でも…恥ずかしい…です…」
言いながらシーツの中に潜り込んでしまったセナを、蛭魔はシーツごと抱きしめる。ヤバイ。滅茶苦茶可愛い!おずおずとシーツの中から伸ばされた腕が蛭魔の身体に絡みつくのを感じながら、笑みが零れるのを止められない。

キスで我慢しただけ、よく辛抱したと自分を褒めてやりたい。






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ひーったすらイチャイチャイチャイチャー!
イチャイチャタクティクスー!(漫画が違う

もうね、ヒルセナが幸せ幸せしてると、私も幸せ!

【2006.02.21】