蝶の夢−Deeply−



一緒に居るだけで、
些細な事がこんなに嬉しい。
些細な事がこんなに悲しい。



いつの間にか雨は止み、月がたくさんの星を従えて暗い空を彩っていた。
蛭魔は、静かな寝息を立てているセナのその明かりに照らし出された所有印の浮かぶ白い肌を、取り替えた真新しいシーツで隠すと、自分は床に散らばった服の中から黒いシャツを拾い上げて羽織る。セナを起こさないようにそっと頬にキスを落とすと、音もなく部屋から出て行った。

シンとした夜の森を歩く。今夜は梟さえも静まり、綺麗な満月に見入っているのだろうか。
いつも歩いている道なのに、こんなにも高揚感があるのはきっと、セナが今自分の元にあると言う気持ちからなのかもしれない。ようやく手に入れた愛しい存在は、いつの間にかこんなにも自分の大部分を占めていたのだ。先ほどまでの行為を思い出し、全てを受け入れてくれたセナに、感謝と歓喜を感じ、どこか達成感すら感じていた。うっすら浮かんだ笑みさえ隠そうとも思わない。
さすがに浮かれすぎだろうか。苦笑が漏れる。
だから、これから自分が向かっている先に待っている厄介ごとのことを考えることにした。
そう、セナと共に生きて行くのであれば、はじめに超えなくてはいけないハードル。
セナの姉・まもり。


「冗談じゃないわ!どうして・・・!!」
案の定、厄介なことになりそうだ・・・。もうこの問答も何回目だろうか。内心いい加減うんざりしている。まぁ、セナのためなら我慢できる自分が居たりするんだけれども。
「さっき説明しただろうが」
「あんな説明で満足できるわけが無いでしょう!?貴方が本当の事を言っている保障なんてどこにもないわ!むしろ信用しろと言うほうが無理じゃないかしら!?嘘をついていると言われたほうがよほど自然よ!!!」
しかし、そろそろ本当に我慢の限界なんだが。
「ウルセーよ。んなに信用できなきゃ信じなきゃいいさ。ただ俺が言っていることは本当だ。」
「いい加減それも聞き飽・・・」
「セナは俺の所に居る。あいつが望んでだ!テメェが俺を信じようが信じまいが、どうでもいい。だがな、」
ホントいい加減うんざりだ。セナの保護者ヅラして、セナのことなんざ何にもわかってねぇじゃねぇか。

「セナの事を嘘つき呼ばわりするのだけは許さねぇ。」

「・・・ッ!」
自分がそういう事を言ったと初めて気が付きましたって顔しやがる。嗚呼、ホント面倒くせぇ。
「わかったら、早く支度しやがれ。セナの食いモンと着替えだ」



「ん・・・」
少し、肌寒い。けど、頬に当たる肌触りのいいシーツにもう少し包まってこの現と夢の狭間を彷徨ってもいたい・・・。・・・ん?肌触りのいいシーツ?・・・肌寒い?
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
急激に思考がセナに帰ってきた。そうだ、自分は昨夜、ひるまさんと・・・!
あまりに吃驚し過ぎて、飛び起きたセナは腰の痛みにさらに声にならない悲鳴をあげてベッドに再び突っ伏した。身体はいつの間にか綺麗にされていたが、その痛みが、昨夜の出来事が嘘では無いと訴えており、また、本当に蛭魔に自分の思いが通じたのだという証明でもあった。
(どうしよう!僕、あんな恥ずかしい事・・・!)
昨夜の自分は鮮明に覚えている。もういっそ穴があったら入りたいほどに。裸のままの自分にシーツを掻き寄せ、真っ赤になった顔ごとその中へ埋まった。

どのくらいそうしていたのだろうか。落ち着いてきたセナは、ようやくまともに思考が働き出した。
(まずは服を着て、それから蛭魔さんに・・・蛭魔さんに・・・何て挨拶したらいいんだよー・・・)
挨拶どころか、どうやって顔を合わせていいのかすら思いつかない。
(あれ・・・?そういえば・・・)
蛭魔はどこにいるのだろうと、そっとシーツから顔を覗かせて部屋を見渡してみるも、姿は無く。床に散らばった服は、自分の物しかない。床に散らばった服にもセナは赤面したのだが、それよりも蛭魔が居ないことに不安が募る。
「ひ、ひるま、さーん?」
勇気を出して蛭魔を呼んでみるものの、か細い声は部屋に反射する事無く消える。それに反比例するように、不安は大きくなった。
(あ・・・泣きそう。)


「お?起きたのか、セナ」
その時、セナの背後の部屋の出入り口から待ちわびた声がした。振り向けば、蛭魔が手に大きな荷物を抱え立っていた。
「ひるまさ・・・」
ベッドに真っ直ぐに近寄ってきてくれた蛭魔に、セナはベッドに座ったまま腕を伸ばして抱きつく。腰が、痛いと悲鳴をあげるけれど、今はそんなことなんてどうでもいい。蛭魔がここにいると実感したい。荷物を床に置いた蛭魔の手が、優しくセナの髪を撫でる。
「また・・・」
「ん?」
「また、ひるまさんに会えなくなっちゃったのかと、思ったんです」
少し目を赤くさせたセナが蛭魔を見上げて言う。
不謹慎かもしれない。でも、それでも、嬉しいと蛭魔は思う。この小さな存在は、こんなにも自分を必要としてくれるのだ。
愛しい。愛しい愛しい愛しい。
蛭魔はセナの隣に腰かけ、そっと包み込むようにして抱きしめる。
「もういなくなりゃしねーよ」

抱きしめる腕の力を、少し、強くした。






>NEXT(蝶の夢−Lovers−)


初めて前回の次回予告サブタイトルと変更が生じました・・・。おぉう。

はじめの予定では、もっとイチャイチャベタベタ砂吐くぐらいに甘々になるはずだったんです。
しかし、まもりさんが・・・。まもり書き難いー!
というわけで、もちょっとイチャイチャ続きます〜。

蛭魔さんとまもりの会話のトコのサイドストーリー書きたいなぁ。
てか、読みたいですか?(聞くなって
うーん。うーん。反応があったら書こうと思います(他力本願

【2006.01.27】