蝶の夢−Crazy Over−



罪悪感とか、背徳感とか、そんなもの全然ない。
あるのは、ただ、貴方だけ。



室内の薄闇の中は、先ほどまで居た外と同じ雨の匂いがした。
セナは、少し冷たいシーツの上でボンヤリと先ほどまでの事を思い返していた。


彼の愛しい人に、所謂お姫様抱っこをされてセナが連れてこられたのは、あの大きな木の上で。連れてきた張本人の話によれば、なんとココに巣を作り住んでいるのだと言う。そして、偶然雨宿りをするために木の下に入ったセナを見つけたらしい。
「あの・・・」
抱えあげられた身体の右側から伝わる彼の熱と少し早い鼓動に緊張する。さらに自分の先ほどからの行為の気恥ずかしさと、急に大きくなったと感じる雨の音が耳に痛い。顔も熱いから、きっと真っ赤になっているのだろう。それらを何とか誤魔化そうと、セナは運ばれながら以前からずっと訊こうと思っていた事を口にすることにした。
「訊いてもいいですか?」
「何だ?」

「お、お名前を・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あー・・・・・・そういえば・・・」
一瞬頭が真っ白になるのが蛭魔にはわかった。それはそうだ。自分はセナの事を調べに調べ上げて知っているが、セナと自分が話をしたのは先程が初めてだし、自分もあの状況に気が動転して名乗ってなぞいない。大体、種が違えば名前なんぞ知るわけが無いのだ。何たる不覚。
「蛭魔だ。蛭魔妖一」
思わず立ち止まりセナの顔を見つめていた蛭魔は、顔を背け苦々しげに答えた。珍しい自分の失態に内心赤面しながらも、表面上は何とも無いような顔をして。
「ひるまさん・・・」
けれど、そんな蛭魔の様子はセナには分かってしまうらしく、意外と可愛いところもあるのだと、新たな蛭魔の一面を見つけた喜びにセナは小さく微笑みながら、名前を噛み締めるように数度繰り返した。

「フツツカモノですが、よろしくお願いします。ひるまさん」
部屋に入って、そっと蛭魔のベッドに降ろされたセナが、その上でもぞもぞと正座になりペコリと頭を下げた。
「本当にいいのか?」
訊こうとして、止めた。考え直されでもしたら、悔やむに悔やみきれない。どうせ後悔されるのなら、せめて自分の想いを成就させてからだ・・・!
だから、素早く言葉をすり替えた。
「こちらこそ・・・」



雨の匂いが、少し強くなった気がした。

シーツの海に、セナは何も身に着けていないしなやかな身体を漂わせていた。
不思議と羞恥心や躊躇いというものはなくて、セナに覆いかぶさった一糸纏わぬ蛭魔の体温だけを感じていた。蛭魔もまた、セナの白い触り心地の好い肌に、今まで知らなかった他人の温もりに、陶然とする。
二人は薄闇の中で見つめ合う。その鮮やかな、深紅の、深緑の、瞳に吸い込まれそうになる。
「ひるまさん・・・」
セナは呟く。愛してます、と想いを込めて。
痛いほど言葉を伝えてくる、薄闇でもそうと判るセナの深緑の瞳。
形の良い少し薄い蛭魔の唇が、ゆっくりとセナの身体を愛撫するように滑って耳元へと移動し、セナの言葉に対しての答えを囁く。
「・・・・・・・」
ただそれは、セナにしか聞こえないほどの小さな声であったのだけれど。
「・・・ッ!!ひるまさん・・・!」
セナは腕を伸ばし、蛭魔の首筋にしがみつく。蛭魔に触れている全ての場所から、幸福感が拡がる。まるでアルコールが体の隅々まで巡ったようにふわふわする。二人の身体は焦がれるほどに熱く蕩けて、次第に何も考えられなくなる。
「セナ・・・」
艶を含んだ少し掠れた声で名前を呼ばれ、切れ長の眼を見上げたセナは、ふうわりと微笑った蛭魔のこの世のものとは思えないほどの妖艶な美しさを見つけた。
(貴方だけ、居てくれればいい・・・他には何もいらない・・・)
だから、誰もこの空間を、瞬間を邪魔しないで。
(全てを・・・奪って・・・)
自然と絡み合った指はやがてキツく握り締められ、そして。

息が出来なくなるほどの、熱――


















・・・雨は二人を隠すように、降り続ける。






>NEXT(蝶の夢−Deeply−)


・・・・・・・こ、これくらいなら大丈夫かしら・・・かしら・・・(滝汗
苦情は受け付けませんからぁ!!

5話目は、はじめ書いたらギャグになったんですよ。蜘蛛ヒルさんが壊れてしまって・・・(苦笑
よかった、ちゃんと修正できて(苦笑
4話のキスが(自分的に)激しかったので、今回はしっとりした静かなシーンにしたかったんですが・・・そうなっていますでしょうか?

まぁ、蛭魔さんがヘタレなのはどうしようもないので、目を瞑ってやってください(苦笑

【2006.01.18】